【土地に寄り添い立地を生かす、家族みんなが楽しく暮らせる住まい】
計画は家族4人が暮らす住まいです。
敷地は、北側に竹林と池が広がり、東側・南側には田園風景(東、南東の田は所有地)が続きます。西側には道路を挟んで遠くに山を望むことができ、四方を自然に囲まれた、静かで落ち着いた環境に位置しています。都心部に建つ住宅と比べて、日当たりや通風に恵まれ、敷地や建築面積にも余裕のあるこの土地では、プライバシーを確保しながらも、暮らしの雰囲気や気配が地域に適度に伝わる、温かくおおらかな住まいのあり方を目指しました。そして、この場所の風土と調和し、年月を経ても古びることのない、美しい佇まいと素材を探りました。
計画にあたって望まれたのは、「土地に寄り添い、立地を生かす、家族みんなが楽しく暮らせる住まい」であること。そのため、建物は敷地西側の道路から大きく後退させて配置し、軒高を抑え、周囲の風景の中に溶け込むようにしました。平屋建てとすることで、竹林や田園といった自然に視線がいき、屋外と室内のつながりを豊かに感じられる構成になっています。建物の屋根は軒の深い切妻屋根とし、雨風から木製建具や外壁を守りながら、夏の直射日光を遮り、雨の日でも窓を開けて心地よい通風(冬は西から、夏は東、南からの風)を確保できます。この深い軒は、外と内を曖昧にする「中間の場所」をつくり、縁側のような、内でも外でもないおおらかな空間として、多様な使われ方にできる場となっています。
主居室の東側には3.6メートルの大開口を設け、田園とその奥に広がる池からの風を通します。この窓は全開放でき、深い軒により外土間が半室内化され、内部空間を外へと大きく広げてくれます。風が抜け、光が差し込み、季節の変化を感じられる住まいです。空間構成の中心には薪ストーブを設置しました。ここは食事や団らん、仕事、遊びといった生活の様々な営みが重なる場所であり、名称や機能にとらわれない自由な場になります。住まいの中にメリハリを持たせ、明るいところ、暗がり、高さや広さ、風が通る場所やこもる場所など、環境の違いを設けることで、住む人がその時々で居心地の良いと感じる居場所を自然と選べるようになっています。天井高は落ち着きががでるようにあえて抑え、仕上げには無垢の木材、塗りや大谷石など、視覚的にも触覚的にも心地よい自然素材を選定しました。素材の色味はできる限り着色せず、経年変化を味わえるように工夫しています。
この家は、耐震等級3、断熱等性能等級5(HEAT20 G1)、一次エネルギー消費等級6を満たし、性能面でも『安心』(命、健康、財産をまもる)して長く住み続けられる仕様としています。
設計で大切にしたのは、年月を経ても古びることのない「美しさ」と 住まいは単に長持ちするだけでなく、年月を重ねるごとに味わいを増す、内容が古びない耐久性のあるデザインであってほしいと思います。また、何気ない日常の中で家族の気配や光、風、季節の移ろいを感じ、心地よく、豊かな気持ちになれる空間を目指しています。そして、将来壊して建て替えるのではなく、必要に応じて改修や増築を重ねながら、子や孫へと住まいが継承されていくような、持続可能で温もりのある住まいを願っています。