【竹林を望み風がぬける土間のある住まい】
この計画はコロナの影響で家で過ごすこと(外出自粛)が増えたことで、食生活の変化、働き方、家での時間の費やし方に大きな変化があった中で進んだ、三重県松阪市の郊外に建つ家族4人が暮らす住居兼アトリエです。
この地域では、かつて水運が盛んで河港が発達していました。熊野街道に沿い、地域の商工業の中心で、江戸時代には陶器、伊勢おしろいの集散地として栄え数々の豪商を輩出しました。今もこの地では、かつての豪商の家並みが残り、7月には祇園祭が行われる文化の薫り豊かな住宅地です。しかし、この地域も住民の高齢化により住宅の更新が進み、都市化の様相へと変わりつつあります。
敷地は南北に長く、南側には川が流れ、防風林として竹林や樹齢100年以上のケヤキ等の大木があります。都心部に建つ住宅に比べ、日当たりや通風に恵まれ、敷地や建築面積にも余裕のあるこの土地では、プライバシーを確保しながらも、暮らしの雰囲気や気配が地域に適度に伝わる、温かくおおらかな住まいのあり方を目指しました。そして、この場所で時が経ても古びることのない美しい佇まいと素材を探り、地域の原風景を守り、継承されていく意識を高めることで人々から愛される風景となっていくことを願いました。
建物の印象を和らげ、隣地住宅の採光、通風を守るため、前面の道路や隣地境界から建物を大きく後退させ、軒の高さを抑えています。屋根の形状は軒の深い切妻屋根とし、大きく張り出た屋根は、木製建具や外壁を雨風から護りながら、夏の暑い日射しも遮り、雨の日でも窓を開け通気ができます。また、地面から登梁の下までは1.8mと抑え、深く低い軒が壁に陰影をつくり、単調な形に表情を与えています。そして、その深い軒は内でも外でもない中間の領域をつくりだし、多様な使われかたができるおおらかな場所となっています。
内土間は温かい時期には引き戸を全開にして川、山からの風を通し、トップライトからの光で半外部のような空間として。その為、日中はほぼ照明が要らず、湿気もたまりにくく、エアコンの出番も多くない。冬はトップライトからの熱や薪ストーブの熱を土間へ蓄熱する温室として、気候調整の役割を持ちます。また、土間空間は食事や団らん、仕事、遊びなどの機能や名称の境界をなくし、多様な使われ方ができるおおらかな空間となるようにプランの中央へ配置しました。空間を勾配屋根で覆うことで森のようなやさしく護られた空間をつくり、トップライトからの木漏れ日によって生命感ある空間を目指しました。
空間にメリハリと内外にベンチや椅子、ソファーコーナーなど留まる場所を多く設け、季節や時間帯に合わせて、各々が居心地の良い場所を選び、何気ない日常の中で光、風、季節、家族の気配を感じ、気づくことで日々の暮らしが豊かなものになればと願っています。