北浦の家 フルリノベ―ション

 この計画は、三重県の住宅地に佇む、築約40年の住宅のフルリノベーションです。
 この地域は、歴史的な背景を持ちながらも、住宅地として発展をしてきた地域で、丘稜地帯の自然に恵まれた環境と、中心部への良好なアクセスを兼ね備えています。静かで落ち着いた住環境を求める方々に人気のある住宅地です。
 敷地は、北側が全面道路に面し、西側は私道に接する角地に位置しています。東側及び南側が隣地と接していますが、南側には比較的広い庭スペースが確保されており、日照や通風、外部とのつながる重要な場所となっています。この庭は、室内に自然光や風を取り込み、季節の移ろいを感じられる豊かな住環境を担っています。
 対象の建物はご主人が子ども時代を過ごした場所で、家族3人が新たに暮らす住まいとして再生されました。建て替えではなく「残す」という選択には、ただの家ではなく、家族の歴史を未来へ繋げたいという、深い想いが込められています。構造補強(耐震補強)、断熱を含む全面改修を行い、これまでの家族で暮らした「記憶を大切」に既存の外観や一部の間取りや空間構成を残しながら、現代の暮らしに適した快適な空間へと再生しています。
 改修にあたっては、素材の持つ本来の色味や質感を大切にし、強い反射や人工的に着色した新建材は極力避けて、無垢の木等の自然素材の経年変化が感じられるような素材を用い、木材については部位ごとに適材適所(硬度、耐水性、防腐・防カビ性、断熱性、経年変化、香り、耐久性等)で使い分けることで、素材の特性を最大限に活かしています。手触りや光の反射、視覚的な落ち着きに配慮することで、長く愛される「空間の質」を追求しています。また、障子や簾戸といった日本の伝統的な建具を取り入れることで、柔らかな光を室内に取り込みつつ、外部との緩やかな境界をつくり、通風を確保しながらも隣地の視線を程よく遮るなど、心地よい空間になっています。住まいとしての「使い勝手」にも十分に配慮しています。生活動線を見直し、家事のしやすさや収納の充実を図ることで、日々の暮らしがより快適に感じられるよう工夫しています。キッチン・水回りの配置は、コンパクトながら効率的なレイアウトとし、限られた空間の中でもゆとりを感じられるようになっています。室内の温熱環境も床や壁、天井、窓の断熱性能の向上により大きく改善(約3倍)され、夏涼しく冬温かい、体にもやさしい快適な住空間となっています。
 設計の中心には、「飽きのこない新鮮なデザイン」と「日常に寄り添う心地よい空間づくり」という考えがあります。年月を経ても古びることのない「美しさ」、また、家族の気配や光、風、季節の移ろいを感じ、心地よく、豊かな気持ちになれる空間、そして将来世代へ住まいを受け継いでいくという想いが、設計の根幹にあります。建て替えではなく、既存の建物を活かすことで、家族の歴史と記憶が次代へとつなげる、持続可能で温もりのある住まいを目指しました。

所在地:三重県(住宅地)

用途:専用住宅

種別:耐震補強・改修(大規模な模様替)

構造:木造軸組工法

規模:地上2階

延床面積:164.89㎡(49.88坪)

設計・監理:原田建築設計舎|HaradaArchitects 原田知幸

構造設計・監理:株式会社 田端隆建築設計

施工:建築タケウチ株式会社 竹内健太郎、宮田将孝

造園:堀田造景舎 堀田貴昭

写真:原田知幸(竣工写真改めて撮影)

性能:上部構造評点1.5 ・断熱等性能等級5(HEAT20 G1)UA値0.57・一次エネルギー消費等級6

(改修前:耐震等級1・断熱等性能等級2(SS55年旧省エネ基準)Ua値1.67)

建物施工費:坪単価65万~72万

設計期間:2024年2月~9月
施工期間:2024年10月~2025年5月

※住居の為、詳細非公開